パナモリカンパニー

オールの代わりにハンドルを

傘木希美は聖人だったか?(映画 リズと青い鳥 感想)

 

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映画「リズと青い鳥」を観に、6度劇場へ足を運んだ。そして、原作である「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」も読んだ、勢いで。それを踏まえた上で リズと青い鳥 について想いを吐露しようと思う。

 ネタバレ含むので苦手な方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傘木希美は聖人か?否、本人が言うとおり、「軽蔑されるべき」人間だろう。たまたま、鎧塚みぞれを救っただけだった。しかし、アニメーションで語られる所謂『普通』とされる人間達は、我々にとっていつの時代も心に寄り添う味方であっただろう。何故か?それは我々一般人がその様を見て安心することが出来るからだろう。そうか、成れなくてもいいのか、宝石には、と。だから私は傘木希美を突き放すことは出来ない。彼女を救うことは出来ないが、、顛末を見届ける事ができるし、それは必須条件であろう。希美は、音楽が好きだった。人一倍好きだった。音楽を強く好きだった故か、臆病だった。内面を見せず、取り繕って生きる術を身に着けた。そうして人から好かれ、心を汚していったのだろう。そんななか一人の少女と出会う。何時も静かに本を読んでいる姿はとても綺麗に視えた。いつもの仮面を付けたまま話しかけると、彼女は震えた声でたどたどしく答える、その小さく美しい手は呼応するように震えていた。希美が吹奏楽部に入らないかと聴くと、彼女は頷いて答えた。それが鎧塚みぞれとの出会いだった(これを鮮明に覚えている希美は愛おしくて仕方がない)。

 無垢だった彼女は、音楽の才能があった。オーボエを選んだ彼女は、瞬く間に上手くなっていった。そして希美はその才能に惹きつけられるとともに、怯えていく、いつもの仮面が剥がれていく瞬間が迫っているかもしれないと(傘木希美はプロデュースのほうが向いているんじゃあないかといつも思う)。

 幸か不幸か、同じ壇上に並び立つ瞬間は高校三年、最後の青春の年に訪れた。その舞台は、絵本 リズと青い鳥。希美は二人の登場人物にみぞれとの関係を投影し、その舞台に立つ。今まさに全てが引き剥がされ裸にされるとも知らずに。希美は終わりの時、その直前まで気づかないまま時は進んでいく。私のほうが音楽が好きだから。私のほうが練習しているから。私のほうがソロを吹けるのが楽しみだから。だってみぞれはいつもソロを吹いているから、きっとわからないだろう。私だって音大に行ける。ーーー本当は、本当は違うって気づいているのに、まだこの思いを無駄にしたくないからーーーだからせめてその時まで………

 

「貴方は少し感情的になりすぎることがある」

 

 もう僕達にはどうすることも出来ない。崩壊は既に始まっていた。リズと青い鳥を練習で合わせていただけで、感情的に吹いてしまう希美。普段の希美は明るく、誰からも好かれる良い先輩ーーーを演じている、それは長年の経験から誰も気づくことはない−−−(加部ちゃん先輩とは大違いだよ、ホント)が、感情を露わにしてしまう。高校ではじめてのソロだから?音楽が大好きだから?−−−違う。『鎧塚みぞれ』とソロを吹くから。負けたくない、負けたくない、負けたくない!もはや化けの皮は剥がれかけている。明と暗。みぞれにとって明の存在だった希美は、いつの間にか暗にいた。影はみぞれについて回るが、ある時から希美について回るようになる。みぞれのなめらかな指使いのピアノを聴いて視点をブレさせる希美(これは6回目に気づいた!)。自分はまるで相手にされなかった新山女史の寵愛を受けるみぞれを見て目を逸らす希美。自分の「軽蔑されるべき」部分をなかよしコンビに懺悔する希美。卵の殻を剥がしていくように、汚れた部分を少しずつ見せていく希美。この感情を「愛おしい」以外に表現する方法があるだろうか。そして、予感は奇しくも一致する。終わりの予感は同時に。僕は最後の言葉を「翔び立て!」と読んだ。そして彼女のソノリテが始まる。

 ーーーーーー僕は、6回目を見た時に、みぞれの強い想いを見た。彼女たち二人が「リズ」なのか?「青い鳥」なのか?まだ決めあぐねているが。みぞれは、「もう大丈夫だよ」と言っているように思えた。兎に角、『愛ゆえの決断』を通しで演奏するシーンは素晴らしい。僕はとても好きだ。予感を感じた希美の表情、いつもならみぞれを一瞥するはずなのに出来ない希美。みぞれの一音目に確かに反応する希美。視界がブレ、世界は崩壊し、音すらも聞こえなくなる、彼女の心。大好きだったはずの音楽、自信があったはずのフルートすら構えられなくなる。大粒の涙をこぼし、頭を垂れる希美。言葉にすれば鋭いトゲのように刺さるだけだが、あのシーンはただただ美しく綺麗だ。そして、希美は影になる。理化学室に逃げ込む希美。裸にされた希美は、光になったみぞれと対峙する。もう脚をいくら動かしても自分の影からは逃げられない。自分の影は自分が作る物だから。そして音楽が、フルートが唯一のアイデンティティだった彼女はこう告げる。

「みぞれのオーボエが好き」

 密やかだが讃えるように鳴るガラスの擦れる音がまるで拍手のように広がっていく。僕も同じ気持ちだ。「おめでとう」。鎧塚みぞれのオーボエは、傘木希美、貴方が与えたものだから。だから誇りを持って生きて欲しい。みぞれはずっと気付いていたし、いつまでも大事に抱えて生きていく。だから終わりなんて言わないで。貴方が大好きな音楽を手放すことなんて無い。

 

「だって、物語はハッピーエンドがいいよ」

 

 お互いの道を歩き始める二人。学校の帰り、みぞれを待つ希美。笑って手を振る。心なしかいつもより嬉しそう。門を先に行かせる希美。同じ歩幅で歩く。女の子らしく甘いものの話。ちょっとだけパーソナルなことも話すけど、18歳の女子高生。どう?二人はこれでも悲しそう?辛そう?僕は、もう大丈夫だと思っている。二人はもう大丈夫。そう信じて僕も生きていく。締めの言葉は

 

ハッピーアイスクリーム!」